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2015年1月17日土曜日

TED 驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則

TED 驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則を読みました。

本の中には人に薦めたくなる本もあれば、中身が有益すぎてあまり人に教えないで自分だけの秘密にしておきたい、そんな本もあります。この本は絶対に後者でした。が、あまりケチなことを言ってないで良いものはどんどんオープンにすべきと思ったのでこのポストを書くことにしました。TEDのモットーは「Ideas worth spreading」としているけれど、そのTEDを題材にした本書もまた「広げる価値のある」良書でした。

この本はTEDの名プレゼンを分析して、その共通点を9つにまとめています。その中には、そんなの当たり前じゃんとも思えるけど「法則」として規定することによってもう一度よく考えるきっかけを与えてくれるものもあれば、普段まったくそういう風に考えたこともなかったなぁという新しい気付きを与えてくれるものもありました。9つの法則というのは、簡単にまとめると1. 自分が好きで情熱を持っているものを 2. ストーリーで伝え 3. 事前の練習でたくさんのフィードバックを得て 4. 人々が知らなかった新しい話をして 5. 感情に触れるびっくりの瞬間を作り 6. 適切なユーモアを駆使し 7. 短い時間で要点を伝え 8. 五感に訴え 9. 自分らしく生きるということでした。どの法則の話でも実際のTEDの例をあげて説明していたので、途中でネットでTEDを見ながら読み進めることができたので楽しかったです。

ストーリーを提示する、五感に訴える、といったどちらかというとテクニックに近いものも勉強になったし、自分もやってみようと思いましたが、自分が好きなものに熱中していて、自分らしく、自分が発信したい話をすることで、観客はその真実味を感じてくれるという話が特に心にしみました。振り返ってみると、今まで聞いてきて心躍ったプレゼンは全て話し手が自分が好きな話をしていたんだなということに気がつきました。こんな当然なことをなぜ今まで考えたこともなかったんだろ?また、パームスプリングズに行ったときに、Jonah Lehrerが「書くことに対する愛」を語っていて感動したことも思い出しました。人に良い影響を与える人はみんな、自分が何かに情熱を持って真摯に取り組んでいるということに気がついて良かったし、私も今好きな仕事をしているので、もっともっと好きで面白いことをたくさんして、それでまわりに影響を与えていけるといいなと思いました。

この本であげている上手いプレゼンはどれも面白かったですが、個人的に最も熱中して見てしまったのは、マルコム・グラッドウェルのパスタソースの話でした。私の仕事とも関係するところがあり、人々は自分が欲しがっているものをわかっていない、という単純な事実をとても面白い実例を用いて話をしてくれます。日本語字幕版はこちらから見ることができます。

 

2015年1月10日土曜日

Lean UX ーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)
を読みました。

青いリーン(エリック・リースのリーン・スタートアップ)を読んで、学べるものがとても多かったので、リーン・スタートアップの考え方とUXデザインを合わせるとどうなるんだろうというのが気になって購入してみました。感想としては、青いリーンは新しい発見が多く、ものづくりに対する考え方が私の中で劇的に変わったきっかけになりましたが、白いリーンはどちらかというと既にわかっていたものの再確認が多かったです。自分が成長したのか、本書の特徴がそうなのかはよくわかりませんが、個人的には新しいものを学んだというよりは現状の振り返りに大いに役立ちました。

現状を振り返る上で最も参考になったのが、3つの基盤と15の方針でした。3つの基盤というのはデザイン思考、アジャイル開発、リーン・スタートアップの三つです。15の方針としてはチームのありか(横断的、小規模、課題重点型、共通理解を持つ)から、プロセスの進め方(無駄を取り除く、バッチサイズを小さく、仕事の外面化、分析より形にする、中間生成物中心からの脱却)やマインドセット(失敗を許容する、ヒーローじゃなくてみんなでやる、アウトプットよりアウトカム、ビルから出る)まで、リーンを実行する上の様々な基準が定義されていました。この15の方針に現状のチームやプロセスを照らし合わせてみて、満たされていない項目を少しずつ改善していくのが、ユーザーの声をいち早く取り入れられる良い仕組み構築につながると思いました。

プロセス編はかなり細かく、具体的なワークシートなども用意されていて、課題ステートメントをどのように作成すると良いかとか、デザインスタジオをどのように進めると良いか(配る紙のサイズまで指定していたのには驚いた)、スタイルガイドをどう作ると良いかなどが書かれています。また、様々な種類のMVP(充実度が底〜高のプロトタイプやメールやランディング・ページのような非プロトタイプ)が紹介されていたり、リクルートやスケジューリングを含む定性調査の仕方が紹介されています。チームやプロジェクトには各々のコンテキストがあると思うので、ここに書かれているものを全て実行すればいいという話ではなく、この中で現状に最もフィットしていて、現状の課題を解決してくれるものをいくつか選んで賢く使っていくと良いと思いました。

実践編ではLean UXの実現(主に、頻繁なユーザーインタビューからのフィードバックをどのように取り入れるか)をアジャイル開発にどのように組み合わせていくと良いかの提案が書かれています。失敗例として、スタッガード・スプリントモデルが紹介されていて、このモデルだとデザイナーが作ったものを開発者に流すやり方になってしまうので、コラボレーティブなチーム作りができないことが問題だと指摘しています。本書は各イテレーションに一つのテーマを設定して、みんなで計画・実行・評価することでより優れたチームを築くやり方を薦めています。

通して、この本で得られた大切な気づきとしては「アウトプットではなくアウトカム」「コラボレーティブ・デザイン」の二つです。日頃から何かドキュメントを書かないとアウトプットを出してないような後ろめたさのようなものがありましたが、この本を読んでドキュメントを書くのにかかる時間をもっとアクティブ・ユーザーが増えたとかユーザーの満足度が高くなったといった実際の成果(アウトカム)を導くために投資しようと思うようになりました。また、デザイナーとして、イメージファイルのようなアウトプットを出すことよりも、チームのみんながクリエイティブにアイディアを出し合う環境を作るためのファシリテーション、つまりチームやプロセス、環境のデザインにより力を入れていこうと思いました。